前歯の差し歯が、まわりの歯となじまなくなってきた。写真を見返すと、その1本だけ色が違って見える。そこでホワイトニングを考えたものの、差し歯には薬剤が届かないと分かって行き止まりになった。そんな流れで「歯のマニキュア」という言葉にたどり着く方は少なくありません。
先に結論から書きます。歯のマニキュアと呼ばれている処置は、差し歯の色そのものを動かしていません。表面に材料を重ね、新しい面を1枚つくる処置です。この違いが分かると、手を付ける前に確かめることの中身が変わります。
差し歯の色に手を伸ばすとき、触っている場所は同じではない
「差し歯を白くしたい」と考えたとき、出てくる手はいくつかあります。ただ、それぞれ相手にしているものが違います。
| 手 | はたらきかける相手 |
|---|---|
| ホワイトニングの薬剤 | 天然歯の内部にある色素 |
| 差し歯の作り替え | 差し歯そのもの |
| 歯のマニキュア | どちらでもなく、表面に重ねた材料 |
薬剤が差し歯に届かないのは、分解する相手となる色素が人工物には同じ形で存在しないためです。ホワイトニングの仕組みに、薬剤が向かう先を書いています。
作り替えは、差し歯を別のものに替えるやり方です。インプラントがある人のホワイトニングに、人工物がすでに入っている状態で色をそろえていく進め方があります。人工物という点では差し歯も同じ側にあります。
残るひとつが歯のマニキュアです。この手だけは、差し歯の色にも天然歯の色にも触れません。上に別のものを重ね、そちらを見せる形をとります。
歯科医院で使われるものには、医療機器としての名前がついている
まず用語の整理からです。「歯のマニキュア」は通称で、制度の上での呼び名ではありません。ただ、この処置がしていること自体は、歯の表面をコーティングすることです。そして歯の表面をコーティングする材料には、医療機器としての一般的名称が定められています。そのひとつが「歯面コーティング材」です。
一般的名称は、医療機器を分類するために国が定めている名前です。独立行政法人 医薬品医療機器総合機構が公開している医療機器基準等情報提供ホームページで、その定義を読むことができます。
歯牙の表面をコーティングするために用いる低粘度レジン系材料をいう。他の材料とのキットを含む。医薬品を含むものを除く。
— 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医療機器基準等情報提供ホームページ「別表3-288 歯面コーティング材基準」(厚生労働省告示第261号・平成22年6月30日 最終改訂)
定義が説明しているのは、この材料が何であって、何のために用いるものかというところです。レジン系の材料であること。そして、歯の表面をコーティングするために用いるものであること。読み取れるのはこの2点で、材料としての輪郭がここで決まります。
そのうえで、3つ断っておきます。
この名前は、通称の「歯のマニキュア」と一対一で結びつくものではありません。歯のマニキュアと呼ばれる処置に、この一般的名称の材料が使われるとはかぎらない、ということです。
上の記載は、個々の製品の説明ではありません。分類の側に置かれた定義なので、実際に使う材料の中身は、その製品の説明で確かめる形をとります。
自分が受ける処置で何が使われるのかは、別に確かめる項目です。歯面をコーティングする材料には、別の一般的名称で認証を受けているものもあります。市販されている品となると、この枠に入るとはかぎりません。資格を持つ人がいる場所とそうでない場所で何が変わるのかは、セルフで受ける場合との違いにまとめてあります。
使用目的に書かれているのは、面をつくるところまで
同じ基準には、[使用目的又は効果]という項目があります。歯面コーティング材について書かれているのは、次の一文です。
歯の表面のコーティングに用いること。
短い一文です。ただ、材料の側であらかじめ定まっているのは、ここまでだということでもあります。面をつくるところまでが、この材料の役割として示されているわけです。
では、その先には何があるのか。塗ってからの話が3つ残ります。
- 何色に見えるか。 材料そのものの色と、その下にある差し歯の色が重なった状態を見ることとなります
- どこまで覆うか。 気になる1本だけなのか、となりの歯も含めるのか
- どのくらい残るか。 食事にも歯みがきにも使われる面なので、時間とともに変わっていきます
この3つは、材料を選んだ時点では答えが出ていません。口の中を見たうえで組み立てる部分にあたります。名前から受ける印象は手軽なほうへ寄りますが、中身は診察を経て進める処置です。
覆っても、下の色はそのまま残っている
もうひとつ、押さえておきたい性質があります。コーティングは、色を入れ替える処置ではありません。差し歯の色は、覆われた下にそのまま残っています。
ここが、削って形を変える方法との違いです。歯や人工物を削る処置では、削った分を戻せません。削らないやり方から順に考える理由には、テトラサイクリン歯の変色の回で触れました。覆うほうは、材料を外せば元の見え方へ戻ります。
戻せることは、選びやすさにつながります。同時に、下の状態が変わっていないということでもあります。差し歯がその色である理由は、覆っているあいだも残ったままです。
だから、塗り終えたあとに残る問いは「白くなったか」ではありません。いま見えているのがどちらの面なのか。そして、その面をどう保つのか。ここが実際の検討事項になります。
重ねる前に、済ませておく順番がある
「下が残る」という性質は、進める順番にも効いてきます。
材料を重ねると、その時点の表面ごと下になります。落とせるものが付いているなら、落とすのが先、という順番になるわけです。あとから落とそうとしても、材料が上にあるあいだは届きません。
色とは別に、確かめておきたい部分もあります。差し歯のふちや、歯ぐきとの境目です。ここに段差やゆるみがあるとき、それは色の話ではなく、差し歯そのものの状態の話です。上から材料を重ねても、その部分は変わりません。差し歯を入れたのが何年も前であれば、色と切り離して、治療を受けた医院で見てもらう対象になります。
一方、まわりの天然歯がどう変わってきたかは、色の側の話です。差し歯は入れたときの色のままでも、まわりが動いていれば差は開きます。この向きであれば、動かせるのは天然歯のほうです。
差し歯とまわりの歯で、いまどのくらい差が開いているのか。そこを確かめるところからであれば相談できます。オフィスホワイトニングの詳細はこちら
面が1枚増えると、手入れの相手も1つ増える
塗り終えたあとの口の中には、天然歯の面と、差し歯の面と、もうひとつ別の面があります。3つ目は、どちらのものでもありません。新しく増えたぶんです。
歯の黄ばみを取る方法では、表面に塗って色を隠すやり方について書きました。塗った面には凹凸ができるぶん、汚れが付きやすくなります。増えた面には、こうした性質が付いてきます。
歯ブラシが当たる相手も1つ増えます。研磨性の高い歯みがき粉や、力を入れた磨き方は、この面を削る側にはたらきます。強く磨いたときに何が起きるかも、同じ記事にまとめてあります。
そして、材料を外すのも歯科医院の側です。自分で剥がして終わりにする形とは違います。始めるときに歯科医院へ行くのと同じように、やめるときにも歯科医院を通ります。
つまり、この処置を選ぶという判断は1回で完結しません。そのあとの扱いまでが、ひとまとまりになります。入口の段階でここを見込めていれば、途中で組み直さずに済みます。
どのくらい残るのかは、材料ごとに違う
実際のところ気になるのは、どのくらいもつのかというところでしょう。
ここは、材料によっても、口の中でどう使われるかによっても変わる部分です。噛み合わせの当たり方、口にするもの、みがき方。いずれも人によって違うので、ひとつの数字にまとめにくいところです。始める前に、使う材料についてどのくらいを見込むものなのかを聞いておくと、そのあとの予定を組めます。
もうひとつ、長さと合わせて考えておきたいことがあります。減ってきたときに、どう見えるのかです。
下の色はそのままなので、面が失われるにつれ、始める前の見え方へ近づいていきます。元に戻るというより、覆っていたぶんが薄れていくという進み方です。そのときにどうするかを先に考えておくと、あわてずに済みます。
費用をどう見るか
歯のマニキュアにかかる費用は、使う材料と、どこまで覆うかによって変わります。何本ぶんの処置になるのかが先に決まらないため、金額は施術する医院で確かめる項目にあたります。
比べる相手として、ホワイトニング側の水準を挙げておきます。医院での施術は、1回あたり2万円から5万円が一般的な目安とされています。自宅で使う形は、一式で2万円から5万円という水準です。
※ホワイトニングは自由診療(保険適用外)です。本記事で示す金額はいずれも一般的な費用の目安であり、特定の医院の料金ではありません。
・主なリスク・副作用:施術中や施術後に歯がしみる(知覚過敏)、歯ぐきの一時的な白濁や刺激感、時間の経過にともなう色調の後戻りが生じる場合があります
・受けられない場合:無カタラーゼ症の方、妊娠中・授乳中の方、未治療の虫歯や重度の歯周病がある方などは受けられない場合があります
・効果の感じ方や必要な期間には個人差があります
費用をどう並べて比べるかはホワイトニングの値段が扱っています。差し歯を作り替える場合の費用と期間は、差し歯の状態と位置で変わるため、治療を受けた医院で確認する内容です。人工物の側の色がどう動くかは詰め物の色の動き方にあります。
自分の場合、どこから手を付けると回り道が少ないのか。いまの状態を見てもらうと絞れてきます。オフィスホワイトニングの詳細はこちら
差し歯のホワイトニングとマニキュアに関するよくある質問
市販の歯のマニキュアでも差し歯に使えますか
使えるかどうかは製品の説明によります。歯面を覆うために作られた材料のうちには、医療機器としての認証を受けたものがあります。市販の品が同じ枠に入るとはかぎらないため、何であるかを先に確かめる形をとります。市販品で扱える成分がどこまでかについては、セルフホワイトニングの効果のほうに書きました。
始めたあとで、やめたくなったらどうなりますか
材料を外せば、始める前の見え方へ戻ります。削って形を変える処置とは、この点が違います。ただし外す作業は歯科医院の側で行います。自分の手で剥がすものではないという点は、始める前に見込んでおく部分です。
気になるのは1本だけです。その1本だけで済みますか
差し歯とまわりの歯の色がどのくらい離れているかによって、話が変わります。差が小さければ1本で収まり、離れているほど、まわりを含めて考える必要が出てきます。範囲は診察の場で決めていく項目にあたるため、事前に本数を見込むのは難しいところです。
ホワイトニングと同時に進められますか
薬剤が届く相手は天然歯なので、対象そのものが別です。ただ、順番をどう組むかは口の中の状態によります。天然歯の側がどこまで明るくなるかは、ホームホワイトニングの効果の回にあります。
まとめ
差し歯にホワイトニングの薬剤は届きません。歯のマニキュアは、その行き止まりのあとに出てくる手です。
ただ、この処置がしているのは色を動かすことではありません。この種の材料は「歯面コーティング材」という一般的名称で扱われています。認証基準に示された使用目的は「歯の表面のコーティングに用いること。」という一文です。材料が受け持つのは、そこまでにあたります。
何色に見えるのか、どこまで覆うのか、どのくらい残るのか。この3つは診察を経てから形になります。着色や段差が下にあれば、材料を重ねたあともそのままです。
そして、増えた面はそのあと手入れの相手になります。外す段になれば、また歯科医院の予約が要ります。名前から受ける手軽さと、実際に引き受けることのあいだには、このくらいの幅があります。
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※ホワイトニングは自由診療(保険適用外)です。
・治療内容:マウスピースを用いたホームホワイトニング
・標準的な費用:初月22,000円(税込/マウスピース作成を含む)、2ヶ月目以降11,000円/月(税込)。マウスピースをお持ちの方は初月11,000円(税込)
・主なリスク・副作用:施術中や施術後に歯がしみる(知覚過敏)、歯ぐきの一時的な白濁や刺激感、時間の経過にともなう色調の後戻りが生じる場合があります
・受けられない場合:無カタラーゼ症の方、妊娠中・授乳中の方、未治療の虫歯や重度の歯周病がある方などは受けられない場合があります
・効果の感じ方や必要な期間には個人差があります

